とんでもない知的財産


絶不調のドクター中松



 これまでもドクター中松の特許をいろいろとネタにしてきた私だが、そのドクター中松が、絶不調、スランプなのである。

 2005年になって公開された「中松義郎」が発明者の特許は、
 (1)特開2005-13494 01/20公開 SARSSAFE 
 (2)特開2005-14967 01/20公開 ブレンドリンクの箱
 (3)特開2005-120615 05/12公開 耐地震建築
 の3件だけ。
2004年の公開は4件、2003年がたった1件ということで、とりあえずは出願しているよ、というレベル。
 その特許も、   「SARSSAFE」は温熱装置つきマスク。

 そりゃ、また鳥インフルエンザが流行って大変なことになりそうだが、こんなことをするか?  特許の記述では、課題が解決されて、記述していなければならない。
 では、この空気をあたためるエネルギーを供給するという課題をどう解決しているか?  それは、鉄粉を使うとなっている。
それなら、ホッカイロをマスクにはさめばいいことで、このような発明にたよる必要は無いわけだ。
 だが、そのばあい、鉄粉や、そのほかの健康を害しそうなものも吸い込んでしまわないだろうか?  まあ、そんな対策はこの発明の守備範囲ではないということか、何の記述もない。
 それに気密性の提供も曖昧。
 ということで、突っ込むと穴だらけ、とても実用性はないのだが、その分、中松特許らしさはある。

 「ブレンドリンクの箱」は、健康食品の箱がやせたり太ったりして見えるゆがんだミラーになっているというモノ。
 ドクター中松得意の「食べ物発明」の一つだが、「だから何なんだ?」という特許。



「耐地震建築」は地震(最近多いよね)で地面が液状化しても安全なように、基礎部分を船のような形状にしたモノ。
しかし、そもそも液状化すると分かっているところに、高層建築などするもんかぁ?  液状化するかどうか、土地を調査する方法とか、液状化を防ぐ発明、というのを先にしたほうが良くないか?  それに船底のような基礎工事部分は、液状化に対して相当の強度を持たねばならないだろう。
その強度をどうして得るかという課題にはまったく答えていない。
答えられないとは思うけれど。
 まあ、ドクター中松発明はそのようなものであるといえばそれまでだが、それにしても今年公開の3件ともパンチ不足。
 トンデモハンターとしてはとても物足りないぞよ。

「とんでも」で特許検索

 ということで、この空腹感をまぎらすべく、特許検索を行った。
 「とんでも」または「トンデモ」の全文検索で、私の使っているデータベースでは、公開特許125件、実用新案6件がヒットした。
 そこで、これから内容を検討することにする。
 各特許・実案の要約を読んでいき、「とんでも」な発明をピックアップしていくのだが、まともな会社のまともな出願は、「とんでも」にはならない。
多人数でチェックされ、予算管理もされているからだが、大企業であっても、ときどきトンデモない特許を見ることが出来る。
そのような特許を見つけたとき、発明者がその特許を出願までもっていくモチベーションの持続、発明を上司にどう説得し、弁理士にどう説明したかの苦労が忍ばれるのである。
 キヤノンは、ときどき「びっくり特許」と称して時々びっくりな特許を出願している。
インクジェットプリンタに固体インクとか出願したりして、他社をビビらせようとしている。
 今回はそんな特許を見つけられるかな?
 
 ●実開平6-85692 ハンガー、脱落防止バンド

 針金のハンガーに洗濯物をぶらさげて物干し竿に釣下げると、決まって洗濯ものが風にあおられて地に落ちて汚れたり、時には強風で隣のマンションに飛んでいったりして、とんでもないハプニングや洗濯の二重手間は誰でもが経験済みである。

 
 として、クリーニングの時にもらう針金のハンガーが風にとばされないよう固定するバンドを発明している。
これなどは町の発明家の趣味の範囲でありほほえましいモノ。
しかし、そうして針金ハンガーを使うような節約家は、そのような金具を買うことなく、余ったヒモみたいなものを結びつけるのでは無いだろうか?

 ●登録実用新案第3046371号 携帯電話機
 (課題)世界各都市の標準時刻を知ることができ、とんでもない時間に呼び出して迷惑をかけることのない携帯電話機を提供する。
 (手段)ディスプレイ表示部2に世界各都市の標準時刻を表示し、電話をかけると受信相手国の時刻を知ることにより、迷惑をかけるのを防止することができる。
 

 これはすぐに先願がみつかり、権利行使は無理だろう。
現在、実用新案は、書類の形式の審査しかなく、内容は審査されずに登録されるので、登録実用新案になっているわけだが。
それに、相手の迷惑顧みずにかけるのが携帯電話では無いだろうか。
 むしろ、相手先がとんでもない時間でなくなったときに、お知らせしてくれる携帯電話のほうが便利ではないか。
 あっ! ひとつ発明をしてしまった。
でも、そんな機能だって、もう誰か出願しているでしょう。
 ●特開平7-309715 メークアップ化粧料
    これはポーラから出願されている。
大企業のポーラ化粧品がなにを?と思って読むと、

 (課題)薄暗いところでメークアップして外へ出ると、とんでもない仕上がりになっていたりすることは、しばしば経験することである。
 (手段)雲母チタンを30〜60重量%含有することを特徴とするメークアップ化粧料  (効果)低照度の光源下に於いても優れた演色性を発揮するメークアップ化粧料を提供することを目的とする。
 

 私は化粧をしないのでわからないのですが、とんでもない化粧をしている女性は、薄暗いところで化粧した性なのですね。
 ということは、明るい電車のなかで化粧するのは理にかなっているということか?
 特許自体は、課題解決のための実験方法、結果が開示されており、まともな特許です。

 ●実開平6-28885 東西南北表示床
 都会のビル街の中や大きな駅の中で、どちらが北なのか南なのか分からない時がある。
その時、歩く路面に方向がわかる表示があると、とんでもない方向に行かずに済むので東西南北の表示をした路面床やマンホールの蓋にも東西南北の表示をして、目的地へ行くために安心感を与えたい。
 


 これも町の発明家によるものですね。
発明性はほとんどありません。
それに、地下鉄や地下街の通路では、東西南北よりも、「A1出口」とか「都庁方面」などの名称のほうが優先しますよね。
 特許の書誌事項から、発明者は静岡県田方郡中伊豆町(平成16年4月1日に伊豆市に合併された)に住んでいるらしいが、そこは温泉とゴルフの町であり、いつでも太陽のを探すことで、方向を知ることが出来た。
その人が、どこか大都市に出かけたときに迷子になり、(新宿で孫に会えなかった、とか)その印象をもとに発明したのであろう。
だが、大都会ではおいそれと太陽の方向も確認できない。
それに、よく見れば案内板はそこらじゅうに貼ってあるのに、気がつかなかったんでしょうね。
 おのぼりさんの悲しいところですが、私も大都会デビューの頃を思い出します。


 ●特開2000-186377 ムカデ撃退用壁面カバー貼着用のコンクリートブロック

 これは、ムカデの家屋への進入を防ぐブロックの発明なのだが、その記述は、
「どんな方法を用いておいても、立てつけのよいどんな新築家屋に住んで見ても、夏場になればどこからか必ずムカデが家の中に侵入して来ることになる…山野の近くに住んで居れば、夏場のこうしたムカデの恐怖は人類の宿命みたいなものでしょう…。
その姿態を目にするのがどんなにイヤであっても、ムカデの侵入だけは防止する方法がないので、そんなムカデにせめて噛みつかれないように暮らすことが、われわれ人類の精一杯の方法だと思いますよ…」と、絶えずつきまとうムカデの恐怖の中で人々は諦めて暮らしている。
 

 と、ホラー映画か動物パニック映画の前説みたい。
で、これがなんで「とんでも」発明なのかと言えば、

 普通のコンクリートブロックでも、その片面に深さ5cm程の溝のあるブロックを使えば、その溝を利用して本発明品と同じ方法で壁面カバーがうまい具合に貼着できるかも…と、お思いになる方もおありかも知れない。
ならば「とんでもない!」と申し上げておきたい。
 

 として、この発明の優位性を主張している。
この町の発明家は、高知県高知市上本宮町に住んでおり、高知県の太平洋側寄り、鏡川という川に囲まれた町で、温暖で多湿な気候と推察される。
夏場は苦労されるのでしょうね。
 そして、既成のムカデよけ手段ではがまんならず、自ら発明となったのでしょう。
グーグルで調べても、その後商品化されたようすがありませんが、この発明家、綿々とムカデよけの発明をその後も出願しています。
まだムカデと戦っておられるのでしょうか? ローカルでひっそりと商品化されているのかもしれません。

 ●実開平7-5160 聾唖者用発声器

これは、障害者の助けになる、まともな発明ではないかと思ったら、甘かった。
「とんでも」が登場するのは次の下りだが、

 従来は手話しかなく、それと手話をしている人の口唇の動きを見ることで対話がなされていた。しかも方言といわれる手話も多く、ましてや外国人と話すなどとんでもないことであった
 

 よって、これは聾唖者のためのグローバルなコミニケーション装置の発明であるはずなのだが、「考案が解決しようとする課題」の記述では

手話対手話では、いつまでたっても大多数の健常者の仲間入りはできない。
これを「あいうえお」を中心とした日本語文字に脳の構造を変えねばならないことが課題である。
 

 となっている。
どうも、この発明家は、聾唖者に音の概念を教育するのにとても苦労した様子が、明細書から読みとれる。
 そして、「考案の効果」の記述は、

 身振り言語から音声ではなくても記号言語に変えるわけであるから、人類の言語獲得上の進歩と同じく、著しい脳の進歩をもたらすであろう。
 


 おいこら、発明の効果にそんな「とんでもない」ことを書いてはいけないぞ。
発明の構成により直接導かれる効果だけにしておかねばなるまいに。
 この福岡県飯塚市に住む発明家は、聾唖者の役に立つことよりも、脳の構造を変えることに関心があるようだ。
 でも、脳の改造がこんな装置でできるのか?
 セレブレックス(頭寒足熱椅子)で頭が良くなるというドクター中松より野心的だ!  それで脳の進歩した聾唖者が現れたのであろうか?
 実験レポートが欲しい。
 出願文書にはそれらしい実験記録のは無いので。


 以上、「とんでも」で検索した特許・実用新案をピックアップして眺めてきたが、「とんでも」発明には、どうも地域性があるような気がしてならない。
 地域固有の理由に、個人的な事情が重なって、「とんでもない」と文章中に表現してしまう、とんでも発明が生まれてしまうのだろう。
 特許出願文章からは、実にいろいろなことが読みとれてしまうのである。
 その点、東京に住んでいるだけでトンデモ特許を生み出してきたドクター中松は賞賛されるべきであるが、しかし、最近の内容の薄さで、物足りないのである。
 

とんでもない商標


     特許だけでなく、商標や意匠も知的財産である。
そこで、商標の「トンデモ」も検索してみた。
 特許庁のホームページから、「称呼検索」を利用するわけですが、 検索のためには類似群を指定しないといけません。
 と学会の首尾範囲、書籍、出版、学会となると、

  (1)書籍 →  26A01
  (2)漫画の自費出版物・漫画同人誌等各種漫画に関する
    書籍の展示即売会の企画・運営 又は開催
    (たとえばエスイー株式会社が「コミックワールド」
     を4309611号で登録して いる)
        → 35A01
  (3)オンラインによる電子書籍及び電子雑誌の提供
        → 41C02
  (4) 学会・セミナー・シンポジウム・会議・会合・講演会
    ・講習会・研修会・討論会 の企画・運営又は
    開催及びこれに関する情報の提供
        →  41A03

  この4つ位でしょう。
  商標では、発音した時の感じが似ているかどうかが問題になります。
登録されたものと、声に出してみると似ている・・・というのはまずいです。

 ということで、検索に取りかかります。

 呼称検索で「トガッカイ」を調べてみると、

 呼称:トガッカイ
 類似群コード:26? 35? 41?   (?で前方一致)

 で検索すると2件あり、どちらも同じ出願人ですが
 (1)第4629763号
   【商標(検索用)】NARA TO―KAE\なら\とう か え\§燈花会    【称呼】ナラトウカエ,ナラトーカエ,トウカエ,トーカエ,トーカカイ,トーカ
 (2)第4642022号
    【商標(検索用)】とう か え\§燈花会
    【称呼】トウカエ,トーカエ,トーカカイ,トーカ

 「トーカエ」と声に出してみましょう。
 言葉の感じがトガッカイとはかなり違うので大丈夫でしょう。
 燈花会は、奈良で1999年から始まった、ろうそくを多量にともすイベントで、運営する「なら燈花会」は特定非営利活動法人(NPO法人)になっています。
こうしたイベントでも登録商標しておくモノなのですね。

 問題は「トンデモ」で、



 第3239140号
 【登録日】平成8年(1996)12月25日
 【商標(検索用)】とんでも戦士ムテキング
 【称呼】トンデモセンシムテキング,トンデモ,センシムテキング,トンデモセンシ,ムテキング
 【権利者】株式会社竜の子プロダクション
 【類似群】24A01 24B01 25B01 25B02 26A01
 【商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務】
   印刷物(書籍を除く),遊戯用カード,文房具類

 こんなんでてきました。
「トンデモ」 だけでは、すでに竜の子プロにとられていますね。
 
 

 知的トンデモ財産とは



 トンデモ発明と地域性については、これからもちょっと探求してみたい気がします。
また、文章中に「トンデモ」の登場しないとんでも発明もまた多く存在するので、(埋蔵金の発見方法、とか)その方面との関連も今後の課題ですな。
 さて、知的財産は、無形物です。
その権利化、権利行使など、権利を得ようとする者は相当努力する必要があります。
 中国でコピー商品を摘発する苦労は、企業にとってとても大変です。
なんせ、昼に親会社の写真がいるときは輸出用の正規品を作り、夜中にこっそり国内向けのまがい物(ライセンス料を払わないもの)をつくる工場があるくらいですから。
警察が頼りにならないと、企業が自分の労力で摘発して行かねばなりません。
 ここで紹介したトンデモ知財は、あきらかに権利行使不可なものがほとんどなのですが、まじめに商売するならまじめに法律に則って対処する必要があります。
 出願しただけで、未だ権利化されていないものでも、あたかも支払い義務があるかのような恐喝まがいの警告状を同業者に送ってくる悪質業者もいますので、そういう場合は慌てず騒がず、法律的な防護壁をきちんと築いてから対処しましょう。


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