トイレット博士、ドクター中松

   

 〜ノーベル賞は夢のまた夢?〜

           
       

大沢 南


 

ドクター中松の最新公開特許について報告します。
 ドクター中松の最新公開特許について報告
します。
 最近はいろいろと特許が話題になることが
多くなりました。
 ノーベル化学賞の田中耕一さん(島津製作所
主任)の特許・実用新案を調べてみると、国内
特許12件、国際特許(アメリカ、イギリスな
ど)1件を出願していて、計13件。内訳は、


 20年ほどの開発業務で出願が13件とは、や
けに少ないと思う。
 ノーベル賞を受賞した技術の特許は、85年
に出願した「レーザーイオン化質量分析計用試
料作成方法および試料ホルダ」の1件である。
この特許に対する専門家の評価は、『特許明細
書の内容が不十分であり、この特許で権利行使
するのは相当の困難が伴なう』だとか。
 この特許で田中さんが会社から貰った報
酬が1万1千円。しかし、回避容易な特許であ
るから、同業他社は、島津製作所に使用料を払
わずに来たであろう。
 なにしろ、そのノーベル賞特許を応用した
『島津レーザーイオン化質量分析計』の業
界シェアは第3位なのだ。
 島津製作所の業績も再建途上で、2002年3
月期は上場来初の無配となった。田中さんに
「相当の対価」を払う元手がない。それでもノ
ーベル賞特別ボーナスを1千万円払うようで
すが。
 億単位の儲けをみすみす失っているのだが、
逆に言えば世界じゅうで田中さんの発明の応
用研究が特許を気にせずさかんに行われ、タン
パク質の解析が進んだのは人類にとっては貢
献しているということか。
 一方、青色発光ダイオードの開発者で次のノ
ーベル賞候補と言われている中村修二・米カリ
フォルニア大サンタバーバラ校教授は、その製
造装置の特許に関して、(1)開発者である自分
に特許権が帰属すること を主張し、不当利得
として1億円の支払いを求めた。さらに、(2)
仮に特許権が開発当時の使用者である日亜化
学に帰属するとしても、「相当の対価」 (特許
法35条3項)が支払わなければならない、と
して20億円の支払を求めている。(1)は敗訴し
たが、(2)については係争中。中村は会社の冷
遇に耐えながらも自己流で実験装置を工夫し、
発明を成し遂げた。その後の日亜化学の対応も
悪かったため、今の裁判沙汰になっている。
 私のような、企業内開発者としては、発明の
『相当の対価』が裁判所でどう判断されるかに
はとても興味がある。
 ◆さて、中松です◆
以上2つの対照的なケース、生臭い話とは無
縁で、ノーベル賞授与にもまったく関わらない、
牧歌的な特許の世界もまた存在する。
ドクター中松の特許だ。なぜか?
ドクター中松の特許は、人類の役に立つこと
もなければ、巨万の富を生む可能性もないから
だ。あるときは玄人っぽいフロッピー特許、ま
たあるときは頭がよくなりセックスがよくな
る『よくなる特許』、そしてゴルフや腰痛やら
の『身辺雑記的特許』、そして、『はやりもの特
許』の群々。
 そのドクター中松特許の最新状況をレポー
トする。2002年9月までに公開された中松特
許は9件。
 ちなみに登録特許は、特公平07-114517 ソニ
ツクシステム 以後途絶えている。この5年ほ
どは、ドクター中松には新たに権利主張できる
発明がないのだ。
 1)、2)、3)は太陽常数(地球付近での太陽の
輻射エネルギー、1平方cmあたり毎分約2カロリ
ー)の壁に挑む『太陽常数特許』である。
 挑んでもムダであろう。
 5)、6)はデジタルBS放送開始をにらんだe
コマースもの。『はやりもの特許』である。
 ◆トイレット博士、ドクター中松◆
 公開特許での新傾向は、なんといっても4)
と8)のトイレである。以前にも特開平
10-037276 一歩前進トイレ というトイレも
のがあったが、今度は2件も出願されている。
 これらは身辺雑記的特許として分類できる。
 ということは、最近の中松は、便秘か下痢が
続き、トイレに関心が高まったのであろう。
 では詳細に検討していくこととしよう。
 ●4) 特許公開2002−250070
 








 これはウォシュレットの操作盤が、右脇の
下にあると、
 (1)体を捻って操作しなければならない
 (2)暗い時、ボタンの位置が分り難くしばし
ば不潔となる
というものを解決したもの。体を捻るとおそら
く腰痛がするのであろう。腰痛に関しては、特
許2527404 腰痛防止器 を発明しているが、
これは腰を捻ることを警告するだけであり、捻
った痛みを解消する発明ではない。そこでウォ
シュレットにおいても、腰を捻らずにすむ工夫
が必要となった。
 しかし、ではなぜウォシュレットの操作盤は
正面にないのか?これにはウォシュレット開
発において、深い理由があると思われる。
中松発明のような位置では、男性の場合小便
がかかる心配がある。また、まれに長すぎるペ
ニスがふれてしまうかもしれない。便器だけで
あれば、便器を拭くだけでよいが、操作盤を汚
した場合は、機械が故障する心配があり、さら
に感電する危険がある。ペニスから感電した
ら・・・男性諸君は思わず背筋が寒くなるでし
ょう?
 もちろん不潔でもある。男性の小用の場合は、
『手前に操作ボタンがあるのでこれを汚さな
いように小便時に従来以上に便座を上げるの
で便座が従来より清潔になる。』という効果も
述べられているが、便座を上げない奴は、自分
の得にならない限り、便座はあげないものだ。
操作盤に小便がかかる心配は変わらない。
 ということで、有用性の乏しい発明であるこ
とは明らかだが、なんと2001年5月23日に【手
続補正書】を提出し、細かな語句を修正してい
る。それほどの特許なのか???
 ●8) 特許公開2002−194801
 さて、今度は3方向位置決めトイレである。








 お尻をがっちり受け止める便座である。しか
し、自宅用ならまだしも、公衆便所でこんなに
おしりべったりの便座はイヤである。このトイ
レにより、『泌尿器、肛門の位置を決定し、小
型、軽量化出来、汚れを防止することの出来る
トイレ』なのだそうである。
 汚れが少なくなるのは、『常に便器の中央に
便を落下出来るの』からだそうだ。そうすると
オツリのほうも常にお尻の中央に戻ってくる
のかもしれない。
 明細書には書かれていないが、これだけお尻
を固定するのは、ドクター中松は痔で苦しんで
いるのかもしれない。腰痛も治っていないよう
だ。そして、そうなると体を捻るのが難しくな
るので、『大腿間操作トイレット』を連鎖的に
発明せざるを得なかったのだろう。この特許、
まだ続きがあります。








 男性用小便器の、足の位置決め発明だ。これ
により、『体の位置が固定されることとなり、
小便が便器からはずれない位置で放尿する位
置に自動的に誘導するもの』だとか。明らかに
特開平10-037276 一歩前進トイレ の改良で、
人間の幅方向にも傾斜を付けている。頭の良く
なる食品や装置で、中松も多少頭が良くなった
ようではある。
 しかし、やはり、酔っぱらいや老人がこれ
でころんだら、どう補償するのだろうか?この
点が解決されない限り、怖くて誰も採用しない
であろう。
 まだあるまだある。この特許では、洗面所
のレイアウトまで開示している。








 面積効率のよいトイレという本発明のおか
げで、狭いワンルームマンション用ユニットバ
スでも洗い場30を設けることが出来るのだそ
うだ。ユニットバスなら、自分しか使わないの
だから、お尻が便器に密着してもいいというこ
とか。
 以上の発明を総合すると、ドクター中松は、
(1)下痢か便秘か痔で、トイレにいく回数が増
えた。
(2)そのためウォシュレットに対する不満が高
じた
(3)腰痛がひどい
(4)洗い場が狭い。だが日本人ならお湯をザバ
ッと浴びたい。
(5)自分で便所掃除もしている
のではないだろうか。もっと発明品が売れて、
広いマンションに移れば不満は減るだろうが、
こうした不満こそが、発明のエネルギーなので
ある。
 ◆中松版『セグウェイ』◆
 さてもう一件を紹介しよう。
 7)特許公開2002−219003 IT(アイティー)
である。ITとは、Individual Transporterの
略だそうだ。







 この発明の元ネタは、もちろん発明者のデ
ィーン・カーメン氏が、2001年末に発表した
『セグウェイ・ヒューマン・トランスポータ
ー』で、かつて『ジンジャー』とも『IT』(イ
ット)とも呼ばれていたものだ。
 これに対抗するドクター中松は、この特許を
2001年1月25日に出願している。そして本家
『セグウェイ』よりも前に発表会を開催してい
る。その実体は、勝手に走り回るチョロQのよ
うなローラースケート靴であった。もっとも、
本家の発明ものんびり動く個人用2輪車で、た
いしたものではなかった。しかし、その本家発
表に先立って、似て非なる発明を出願するその
根性はすばらしい。カーメン氏の発明内容を事
前に察知していたとしか思えず、中松の人脈を
駆使したのであろう。
 究極の『はやりもの特許』だ。
 使用するバッテリーは『本発明者が別に発明
した燃料電池(米国特許5156977)を使
用することがパワー、耐久力において望まし
い。』とある。燃料電池とは、またしてもはや
りもの特許か?と調べてみましたが、そんな発
明はありませんでした。
 中松の米国特許は、US Patent and Trademark
Office (http://www.uspto.gov/)で検索する
とわずか6件だけであり、米国特許5156977
はMonoclonal antibodies against atrial,
natriuretic peptides of humans, hybridomas
& methods of useというまったく別の発明者
のもの。
 ◆遠きノーベル賞◆
 ということで、ドクター中松はゴーイングマ
イウェイ、牧歌的特許の道を今後とも進んでほ
しい。人類に貢献することも大金を稼ぐことも
ないだろうが、小柴昌俊東大名誉教授のカミオ
カンデだって1983年の実験開始からノーベル
賞をもらうのに20年近くかかっているのだか
ら、中松に無縁とはだれも断言できない。



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