ドクター中松がトンデモ本大賞を受賞するたったひとつの冴えたやり方


大沢 南



1.趣旨
 『と学会誌9』にて、『ほんとうは発明王だった中松義郎』を書き、ドクター中松の出願した特許の面白さを紹介した。その面白さを味わうには、特許明細書という、権利を主張するためのクセのある文章を読みこなさなくてはならない。
 そのような、特殊な事情のもとでドクター中松にトンデモ本大賞を受賞していただくにはどうすればいいか?という命題の追求がこの文章の趣旨である。
2.発表期間
 2002年の受賞資格は2001年に発表されたものであることだ。
 特許を出願すると、1年半後に公開され、公報やWebページで誰でも読むことが出来るようになる。その公開を発表年とすることにして、中松義郎の2001年に公開された特許を検索した。
 次の14件であった。


 以上は全て2001年の1〜3月に公開されており、しかも過去に出願されたものの分割出願であった。分割も、権利を広げて強い特許網を作り出す重要な作戦ではあるが、新鮮味はない。1)〜9)及び13)〜14)までは微少な電波エネルギや太陽エネルギを集めるもので、太陽常数を超えるものではあり得ず、ほとんど実用性はない。
 残る10)、11)、12)は、特願平6-87107『嗅覚による脳活性方式』からの分割である。
 元の特許の請求項は「脳を活性化するにおいを鼻孔を通過せしめて脳の嗅神経、嗅球、前交連、梨状皮質、扁桃核を刺激して脳を活性化し得る事を特徴とする嗅覚による脳活性化方式」の1項目だけである。
 それだけでは、従来の「気付薬」と変わらないため、発明とは認めがたい。ところが、相次ぐ「頭のよくなる発明」の成果がドクター中松にも現れたのか、特許を分割して出願し、成立させるという方法をとり始めたのである。(効くのに時間がかかった。)
 それが10)の鼻の穴に直接つっこむ匂い袋、11)のピラミッド型香炉、12)の香るキャンディーという3つの発明である。
 10)の匂い袋は水泳の鼻栓より不格好で、これを実際に使う人がいるとは思えないが、その分、先願があるとも思えないので、登録される可能性は高い。11)はピラミッドという形があるので、これに限定することで登録の可能性を高めているが、限定した分、ピラミッドに見えない他の香炉に権利主張してお金をもらう、といったことは出来ない。
 そう、特許は限定した権利範囲で成立させてしまっては、お金になりにくいのである。
 (1)いかに権利範囲を広く取るか
 (2)みんなが使わざるを得ないもの、そのものを特許にしてしまうか
 というのが特許を成立させるときの大事なテクニックなのだ。
 この中では、11)の発明の効果の記述が、
「本発明装置の外形はピラミッド型でこれを見るだけでピラミッドパワーにより力を与え、落ち着き、頭を冴えさせる。これに加え、頭の良くなる香の発散による頭の活性化や、フィルタによる室内空気清浄化の三重の効果とその相乗作用のある画期的な発明である」
 と、『ピラミッドパワー』がすでに認めれた効力であるかのような記述があり、ちょっとトンデモかな、と思うがトンデモ大賞には役不足だ。2001年の公開特許には、『セックスがよくなる』系統の読んで面白い特許出願が少ない。
3.登録特許
 行き詰まった私は、登録特許を検索した。ドクター中松2001年に登録になった特許は、
 特許第3227362号(2001.8.31)
 だけである。さみしい。登録日もまるで夏休みの宿題みたいな日付。
 これは、特願平7-320934の「腕電話」というものが元出願で、『と学会誌9』の私の記事でも『「ウルトラセブン」を知っていたら出願出来なかったであろう発明』として取り上げたものだ。代表図は、この記事先頭の図を参照のこと。
 請求項は一つだけ、
 「手甲に載せ手首に固定し得、且つ人体の熱が伝わる事を特徴とする電話」
 である。それが成立していたのだ!
 あんな請求項で、いったいどうやったの?ということで早速本文を読んでみる。
 この特許は、出願と同時に審査請求がされている。一度、「こんなのは発明じゃないから拒絶する」という審査官の拒絶査定が出ていたのだ。そりゃ、どんな審査官だってそうしただろう。中松は不服として審判に持ち込み、登録に成功している。
 参考文献として4件の記載がある。これらは、特許の審査の参考にしたもので、当然のことながら、元の発明に似たものが掲げられることになる。
 a.特開 平5-140803
 b.特開 平5-136859
 c.特開 平6-343094
 d.実開 平7-7284
 b. c. d. は携帯電話の形態そのものを工夫した発明である。a. は「フインガーレス手袋の甲の位置に固定設置させた各種超小型化精密機器の交換装着固定装置」という長い名称の発明である。図面は、
  .


 これを見て、普通は特許成立をあきらめそうなものだが、しかし中松はくじけない。拒絶はいやだ、登録しちゃおう、と、成立のために、権利範囲を狭めたのだ。
 請求項は以下のように変更されていた。
 「左手(右手)を右方向(左方向)に曲げて右頬(左頬)に近づけた時に、送話口を口に近く、受話口が耳に近い位置とし、左右の手を使わずに迅速に通話が出来るように本体が少なくとも手首に固定され、且つ前記本体は手首部分から手甲方向に及んでおり、手首は自由に屈曲でき、前記手を顔に近づけると本体の送話口に近く、受話口が耳の近くにある事を特徴とする腕電話。」
 言葉ではなんだか判らないでしょうが、図面で見れば、




 の使い方に限定したものになっている。先例、先願によって権利範囲がどんどん狭くなり、とうとうこの図で表される形態だけになり、『人体の熱が伝わる事を特徴とする』なんてのははずされてしまった。もちろん手の甲の熱で携帯機器の電力がまかなえるなら、とっくの昔に実用化されているはずですから、しかたのないことです。
 さて、皆さん、ちょっとお試しになれば分かるのだが、この図に示された会話形態、とても変な形だ。まるで、オカマのポーズをとるようだ。左手の甲に携帯をつけた場合、左肘が突きだしたままのボーズとなり、左肩が大変に疲れ、凝ってくる。中松は何の実験もせずに出願したのであろう。ウルトラセブンも知らず、先願を調べた形跡もないので、実験せずに出願したとて誰も驚きませんが。
 最も、実験していたなら、『このようなポーズはとても恥ずかしく、しかも長く通話すると肩が凝るため、会話を短く切り上げるようになる。これにより通話料が安く押さえられ、しかも長電話で周囲に迷惑をかけるといった悪いマナーの改善になるなどの効果がある』などどいう効能を唱っていたことであろう。しかし、発明の効果の項目にはそんな記述はなく、かわりにこんなのがあった。
 発明の効果(3)
 「電話器からの磁力線34で、フレミング右手の法則により左手血流が促進され、左手は右脳と結合しているので右脳の回転が良くなる」
 ということは、左利きの人は左脳回転が良くなるのか?回転が良くなるというのは、いったいどうやって検証するのか?と、ツッコミどころをきちんと用意していてくれた。
 と、いうことで、2003年夏の日本トンデモ大賞に、特許第3227362号のノミネートをお願いします。
4.さらに検索したい人に
 特許庁のホームページ
http://www.jpo.go.jp/indexj.htm
 には、特許法の解説、特許の取り方、最近の出願傾向などがまとめられており、特許の検索も可能である。
http://www.ipdl.jpo.go.jp/homepg.ipdl
 では、検索の方法から親切に解説してある。上述した各種特許文書も、ここで検索すれば全文を閲覧することができるし、また新たなトンデモ特許を探すことも可能である。ぜひアクセスしていただきたい。
 本なら買うか借りるかしなくては内容が確認できないが、ここでは全文、全図を入手することができる。ただ、特許関係者が多数アクセスしているためか、ページの表示はかなり遅いのはガマンしてくださいませ。
5.結論
 ドクター中松の出願特許に往年の輝き、もとい、トンデモさは失われてしまった。しかし、出願はされたが、まだ公告になっていないトンデモ発明もあり、それらがどのような形で、いつ、公告となるのかわからない。
 これからも中松特許をウォッチし、2002年のトンデモ大賞は獲れなくてもその先を目指して、受賞支援活動を続けていくつもりだ。賛同者、トンデモ特許発掘協力者が現れれば、そのうち、トンデモ本大賞特許部門ができるかもしれない。興味が湧いた方、特許庁ホームページへアクセスしよう!
      【終】

 

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