ほんとうは発明王だった中松義郎



大沢 南


 中松義郎は本当に発明王なのか?この疑問に最新の検索結果でお答えします。特許制度についても解説いたしますので、はじめは退屈でも最後までお読みくださるようお願いします。

●序章〜発明と特許〜


 業として特許を扱っている方はこの章はとばして結構です。
 少し詳しい説明をしますが、ゲームの前にルールブックを読むような物と思ってください。


 私は開発者として特許に関わって十年以上、職務発明なら200以上の特許出願に関わっていますので、特許業務経験は十分あると思っています。そこで退屈でしょうが、特許制度を説明します。特許とは、半分は技術ですが、もう半分は法律の世界であり、ある程度知識がないと、これから解説する中松特許を楽しめません。


 特許法では、発明の数は、特許申請書の『請求項』の数により規定されます。発明数を客観的に見るにはこの方法しかありません。ミニカーやプラモデルの車をいくら所有していても、『所有する自動車』は、法律的に登録を済ませた自動車しかカウントされないのと同じなのです。。

 この特許法も世界各国で違っているのでやっかいです。

 ◆日本の特許法◆
 日本では出願すると1年半後に公報という形で公開されます。特許公開公報という形で、ライバル会社にも見られてしまう。(この公開制度により、すでに先出願があるため、もう出願しても権利が取れないものが分かり、無駄な出願の手間や費用を減らせるという効果があります。
 出願しただけで『金になる』は権利はほとんどありません。『出願した日にはこんなものを思いついていた』ということを主張できるぐらいです。権利を主張するには、審査請求をして、審査官に審査してもらう必要があります。お金のとれる『公告特許』にするためには、さまざまな事務処理、テクニックを使います。
 以前は、公告特許された特許は異議申し立てがなければ60日後に登録される、というステップがありました。今は異議申し立て期間が延びましたので、今ではこのステップ自体に大きな意味はありません。公告すなわち登録です。
 審査請求は、出願から7年以内(今後5年以内に短縮される)に行わなければ権利を主張できません。そこで、他社がどんな出願をしたか、そして今普及している方式(お金を取れそうな方式は何か)をよく見極めながら、作戦をたてて特許を成立させる手続きを行っていきます。たとえば画期的なフロッピーの特許であっても、普及していないサイズのフロッピーに限定した発明なら収入は期待できません。しかし、みんなが使っている物で、規格で決まっていて変更しようのない部分の特許を所有していれば、収入が期待できます。
 ここで、審査を経て登録された『請求項』の数を、客観的な発明と呼べます。
 というのも、出願するだけなら、書類としての形式が特許法に従って整っていて、所定の印紙が貼ってあれば、ウソのデータでもよく見ればインチキの図面でも、また実際組み立てても何の役にも立たないものでも、特許庁は受け付けるからです。お役所ですから、形式が整っていない書類は受け付けてはくれませんが、内容に関する審査は、審査請求されるまでは行われません。
 また、特許の権利は、出願日から最大20年に制限されています。これもある年以降採用されたルールです。このように、相手は法律であり、そのルールは次々変化していくので、特許に関わる人は(あたりまえのことですが)常に最新の法改正をチェックしていなければなりません。
 たとえば、実用新案は、今では審査はなくなりました。ですから、きちんと審査し、権利化したいものは『特許』で出願します。

 ◆米国の特許法◆
 米国では出願すると審査が始まり、数年後には決着して、発明と認められれば登録になります。(少なくとも私の出願する分野では)米国で特許の権利をとる敷居は日本より低いです。特許にしてしまって、あとの争いは裁判所でやってもらい、弁護士を儲けさせるという国策なのでしょう。
 従って、米国では一定期間後の公開という制度はなく、特許庁と発明者の間で事務手続きをしている間はライバルはその内容を知ることはできません。
 そのため、ある日突然、みんなが当たり前のこととして使っていて、だれも権利とは思っていないようなものが権利化され、莫大な特許料を請求されるということが米国相手では起こり得ます。そして、権利期間に出願日からという制限はつい最近まではつけられず、権利化から17年は権利主張すなわちお金を請求できるのです。
 そういうのが『サブマリン特許』と呼ばれて、恐れられています。この弊害があまりに大きいため、他の特許制度を持つ国と話し合いましたが、米国は公開制度だけは受け入れずに、代わりに先発明主義を他の国にも認めるようになりました。『サブマリン特許』については最後にもう一度触れます。
 先発明主義とは、似た内容の出願が争った時に、特許の出願日よりさかのぼり、先に発明したことを証明できるという考え方です。それは発明内容と他人の日付とサインがある書面で良いことになっています。米国の研究者は、背中をほぐすことの出来ない研究ノートを与えられ、1日の仕事が終わるとき、上司にその日の記述部分にサインをもらったりするのはそのためです。日本では、めんどくさいのでやっている研究所は多くないと思いますが。

 ということで長い前置きが終わり、本文です。分からなくても、読み進んでみて、引っかかったらまた序章に戻って読んでみてください。

●第1章〜特許登録数〜


 
 ◆本当の発明数◆
 私は、ある特許データベースを用いて中松特許を検索し、考察していきます。
 大豆生田利章さんの1997.8.25 修正のWebページ
http://inside.gunma-ct.ac.jp:8080/ice/~mame/doc/nakamatsu/kennsuu.html
と私の使ったデータベースの結果から、年毎の登録件数のグラフ1にしました。
大豆生田さんは1995年までの222件を一覧にしてあります。





 1990年に23件というピークがあります。1980〜1984年頃の出願を成立(権利化)させています。
 中松の発明生活は1980年から加速し1990年にピークを迎えたということができます。

 ◆発明の内容◆
 私も中松特許をざっと読み込みましたので、その発明の傾向を分類することができました。その23件を分類してみます。

(1)人体系5件(安眠、精神、血液)


(2)ゴルフ3件

 ゴルフに関してはS55-23626ゴルフクラブ以後も時々特許を成立させている。
 ゴルフのスコアが良くならない、特にパターが下手なようだ。普通の人は練習でスコアをよくしようとするが、中松は発明で良くしようとする。

(3)フロッピー・機構関係9件


 言わずとしれたフロッピーの特許である。
 中松は常々、IBMとその件で契約した唯一の個人ということを自慢しています。IBMとしてはフロッピーの普及のため、フロッピー機器・メディアの製造のためのライセンス業務はIBMとだけ行えば良いという仕組みにしたかったので、フロッピーに似た特許、紛らわしい特許を持つ企業、発明者に、『フロッピーに関する訴訟を起こしません』という約束でお金を払っていたのです。あちらこちらから訴えられるかも知れない、というリスクの中では誰も安心して製造・販売ができませんからね。中松としても、そういう約束でお金を受け取った以上、フロッピーディスクの基本部分では何も発言できず、ちまちまとした改良特許を出し続けるしかありません。
 フロッピーを作る方は、IBM1社と契約するだけなので楽です。最近ではIEEE1394(ソニーがi-LINK, アップルがFirewireと読んでいる物)がこの方式で、しかも安いライセンス料で普及を図っていますね。
 それら改良特許ですが、開発者の目から見て、よく企業が防衛のために出願する有象無象の特許のようです。そういう意味では、悪い意味でプロっぽい特許出願ではあります。
 磁気には古くから取り組んでいるため、中には磁性流体など、私が使ってみて、実際に役に立った発明もありました。でも、最近はプログラムやデータの容量が増えたし、CD−Rドライブやネットワークが発達したので、フロッピーディスクってもうあまり使いませんよね。


(4)スタンド系1件
公告番号 出願年  発明名称
H02-60920 S58 スタンドアーム等用変角固定装置

 これはアーム付電気スタンドに関する綿々とした出願のシリーズである。光源や構造、用途などをちょこまか改良特許を多量に出願し、公告まで持ち込んでおり、中松の執着のある分野であると思われる。


(5)ケミカル系1件
公告番号 出願年  発明名称
H02-26784 S55 メチルメタアクリレート被覆接着半導体メモリ

 化学物質や化学式を含む出願。中松は高分子化学にも造詣が深いらしい。それは他のゴム製品でも生かされています。


(6)その他おもしろ発明4件

 その場の思いつき系の発明だが、こうして成立までもっていくところは立派であるし、その後シリーズ化されていくものもある。テレビ関係や選挙関係はその後も出願されているし、セックス系、食べ物系、宇宙エネルギー系などいろいろな系列が生まれている。それは第2章にて。

 と、いうことで、西暦2000年末までの中松の獲得した公告特許は、242件です。
大豆生田利章さんのリストに続く、1996年から2000年までのリストは


ちなみに有名なピョンピョン、は、『翔ッ靴』という名称で1995/8/30公告になっています。1989/12/26の出願から約6年かけて成立させています。


 中松の特許は、成立を急ぐため、ほとんどが特許出願と同時に審査請求の手続きを行っています。とにかく早く公告までもっていきたい分けですね。ということは、やはり発明数は公告数である、または公告数が基本であると分かっているのだと思います。
 普通の企業であれば、審査請求は他社との競争のなかで、技術がどの方向で進むか、普及していくかをリサーチしながら、出願内容を補正し、審査請求していくので、出願と同時に審査請求を行うのはよほど急ぐ理由があるときだけです。
 中松の発明する分野では、あまり競争相手もいなさそうですし、紛争も裁判も起こりそうにないですから、から、出願と同時に審査請求ということができるのでしょうね。町の発明家も、特許出願と同時に審査請求という手段をよく使います。
 しかし、これはある国際的企業の知財担当者が言っていたのですが、
 『本当に儲かる特許とは、争いになるもので、儲からないものは簡単に特許として成立するし、争いも起こらない。だから争いを恐れてはいけない』のだと。
 その点、中松特許はマイペースでうらやましいです。
 ちなみに、ピョンピョンの『請求項』を読んでみましょうか。

 【請求項1】長さ方向に弾性的に伸びうる長方形板状体の中バネと、弧状弾性板の上バネおよび下バネを有し、前記中バネの両端部は、前記上バネおよび下バネをそれぞれ付勢して押込む溝部により上バネおよび下バネと結合し、前記溝部方向には上バネおよび下バネが中バネと嵌合する凹凸部があり、これらにより前記各バネを脱着自在に結合したバネを踏部に設けた事を特徴とする靴。

 『請求項』は、発明の及ぶ権利を主張するためのもので、権利範囲を規定する、出願でもっとも大切な部分です。ですから、正確さだけが必要で、読みやすさは考慮されません。 なにしろ、単語一つの順番で何十億もの儲けが発生したり消えたりするものですから、その記述には神経を使います。特許に関わる人は、毎日このような文章相手に格闘しているのです。

 2527404腰痛防止器は1993/10/20の出願を成立させたもの。その時期、腰痛で苦しんでいたのでしょうね。これは、一種の角度検出装置で、腰が曲がり、腰痛がきそうになると警報を鳴らすというものであって、腰痛を治すものではありません。自分で気を付けていれば、いらない発明です

 2640197肩掛手提兼用買物袋は1997/8/13。の出願。買い物かごのひもの長さを変えることができるというものですが、べつにこんな構造にしなくても、ひもがながけりゃ結べばいいことです。なんでそんなことに気づかずに発明してしまうのでしょう。
 発明とは、気の利かない人がする仕事かもしれませんね。



 2587224ブラックライト鏡検索装置もまた、綿々と出願されているアーム付電気スタンドのバリエーションです。一つ得意技を見つけると、ついついその分野似たような発明を続けてしまうもんなんです。開発者のサガと申しましょうか。

●一つの発明に相反する2つの効果




 2646200居眠り運転防止枕は鼻から酸素を入れていびきや居眠りを防止する装置で、明細書(発明の詳細な説明の部分)にはいびき防止の部分では、

『交流100V電源に接続するプラグ2、コード3を有し、コンプレッサ4を枕内に挿入するので作動音が睡眠を妨げぬぐらいに静かになり、むしろコンプレッサの継続して快い振動5が眠りを誘い』
とある。


しかし、居眠りを防止の効果の記述では

『鼻孔への圧力空気供給35による脳への酸素増大と頭後部に接したコンプレッサ9の脳への振動36やコンプレッサ駆動コイル(図5、図6の11、11′)からの磁場37の脳血流への影響(フレミング右手の法則)などの相乗効果により脳が覚醒し、居眠り運転を防止する。特に後頭部を刺激して視力を改善して運転を誤らせない。』

 と、こんどは脳が覚醒するという逆の効果を記述している。一つの発明が、相反する二つの効果を及ぼすのだ。この点、審査官は指摘しなかったのだろうか?
 ただし、この場合は電源は100ボルトではなく、『シガレットライターからとる』と記述してあり、中松はまだ明細書を書く時には居眠りしてなかったようです。

 そして、効果を証明するために日本大学第一内科による本発明の使用効果の表がついている。これによると、日中の強い眠気による作業能力低下には効果があったそうだ。鼻にチューブつっこまれて酸素を吹き込まれたのでは、眠気どころではないだろうから効果があるのだろう。
 また、過去3年間に激しい眠気のために追突事故やニアミスを起こした者(14例)に対して、が本発明枕使用により追突事故やニアミスは消失したという結果が出ている。
 それは、一度事故を起こした人間は気を付けて運転するだろう。しかもそんな恥ずかしい装置を取り付けられたのではとても事故など起こせない。
 早い話、使用効果は、とても客観性が低い。だが、これでも特許は成立させることができるのである。


2802731五徳防災具    出願日1995/2/17
2847478埋没脱出器    出願日1995/2/17
2994566地震室内シェルタ 出願日1995/2/22

 この3件は出願日に注目。そう、1995/1/17午前5時46分に起きた阪神大震災の1ヶ月後に出願されている。震災の直後にこれは、と思い出願し、ちゃんと成立までもっていくのはさすがである。火事場泥棒、いや、紀伊国屋文左衛門的才覚ではあります。ただ、こんな発明品よりまえに、災害のために買い込むべき物がほかにたくさんあると思う。



 ご注目されているでしょう、3112609コンドームについては次章で取り上げます。


●第2章〜特許出願数〜

 ◆最近の出願状況◆
 中松特許の成立について見てきたが、では出願はどうなっているのか?私の使ったデータベースでは1992年からの出願から公開された範囲でしか検索はできなかったのですが、内容重視で見ていきます。

 年毎の出願件数、登録件数をグラフ2にしました。





 出願件数を元出願と分割出願に分けてあります。元出願は、1年半後に公開されるため、まだ2000年の出願数は分かりません。分割出願とは、先に出願した特許があって、そこに記述した内容を使って新たな請求項をたてて出願することです。なぜこんなことをするかというと、先に出願した時には気づかなかった発明、権利範囲を主張していなかった内容を、出願日を最初に出願した特許の日付のままに新たに権利化しようということです。
 だったら全く新しく出願すれば良いではないか?と思うところですが、特許の権利は同じ内容なら出願日の古い方に与えられますので、出願日は古ければ古いほうがいいのです。このテクニックを使って、たった一件の出願が、あとで100件以上に分裂して、そのどれもが特許成立、ということも特許の歴史上ありました。そしてもっと怖いのが『サブマリン特許』ですね。そう、これはまた後で説明します。


 この元出願は平成4年〜11年で平均6.5件。
 公告(登録)は平成4年〜12年で平均年6.1件。出願から登録への歩留まりは、普通の企業の出願より高いと思いますが、ライバルのいない分野では、当然成立率は高くなります。
 平成12年公開の分割出願は突出しております。出願も公告も右肩下がりなので、特許施策の大転換があったのでしょう。
 特許法の改正で、1つの出願の中で、関連のある複数の発明を記述していいことになりましたが、相変わらず中松特許は1出願に1請求項、すなわち1発明です。ですから発明3000件というのは、特許出願/特許成立の数とは無関係にカウントしているのでありましょう。自動車のたとえを繰り返すせば、中松家で登録した自家用車は、家に転がっているミニカーやプラモデルや絵に描いただけの車のうちの10分の1以下であるといえます。

 ◆出願内容検討◆

 (1)遊戯装置
 【出願番号】特願平4−262663【出願日】平成4年(1992)8月20日
 【目 的】 パチンコ機又はスロットマシンの遊戯による得点に比例して、遊戯者が興味を持つ映像を進行して表示し、パチンコ機の球又はスロットマシンの換金をなくすること。

 で、結局何の発明なのか?
 パチンコの球を換金するかわりに映像の続きを見せるため、客減りのなく暴力団が介入する余地をなくするとのこと。効果の記述は『装置もクリーン,遊び方もクリーンになるので,店もクリーンで,店の周りの住民や街もクリーンになり,従来のパチンコに伴う暴力団等のトラブル事件がなくなる。』だって。でも、換金なしでもパチンコ遊戯者が興味を持ち続きが見たい映像で、しかも細切れにされてもいいものって、ジャンルが限られているでしょう。
 その映像の方がダーティだと思うし、それに刺激された男性に、別室または別フロアでサービスを提供する商売が現れたら、結局また暴力団が介入してくるんでないかい?
 特許成立はともかく、魅力的でクリーンな映像の提供なしには、パチンコ屋店主は絶対に採用しない発明であろう。


 (2)腕電話





 【出願番号】特願平7−320934【出願日】平成7年(1995)11月2日
 【目的】 電話を腕時計のように手首に付けて受信、発信をすみやかに行い、電話の持ち運びや置き忘れがないようにすること。
  
  携帯電話が買いやすくなり、よく見かけるようになった時に出願している。しかし、いかに中松博士といえど、『ウルトラセブン』は見ていなかったのだろう。何を今更の出願である。
 ただ、中松的工夫は見られる。
 『電話器本体1が手甲30など人体にふれる部分にユニットタイプまたはフィルムタイプの熱電気変換素子31を設けることにより(中略)バッテリー無し、又は図12のバッテリー13を充電し長寿化して通話を行う画期的効果が出る』
 としている。確かに画期的だが、それならまずは体温で動く腕時計が普及しているべきではないだろうか。時計より電力を食う携帯をどう充電できるのか?定量的な検討がされていないので誰も採用できない。
 また、
 『ディスプレイにはボタン操作で時刻なども表示できるので、本発明品は時計も兼用し腕時計は不要となる。以上のように本発明は多くの顕著な効果を有する画期的な発明である。』
 と説明している。たしかに、いまは携帯電話で時間が分かるので、腕時計をしない、買わない人が増えているのを予見していたのはすばらしいが、発明と呼ぶほどのものではない。

 (3)斜面ネタ

 ここで紹介する『容易階段』『一歩前進トイレ』ともに、斜面を使い水はけをよくするという発明品である。





  【発明の名称】容易階段
  【出願番号】特願平6−113287
  【出願日】平成6年(1994)4月18日
  【目 的】楽に早く昇られ、車椅子や荷物の上下も容易であり、水はけが良い階段を実現すること。
  【発明の効果】本発明は、階段を上る疲労を軽減し、又は速く階段を上れるようにし、且つ雨水等の水はけが良く速く、スリップ事故を防止でき、しかも車椅子や荷物の上り下りを容易にすることにある。(中略)老人や福祉のため、産業、輸送、旅行者などに福音をもたらす画期的発明である。

  【発明の名称】一歩前進トイレ
  【出願番号】特願平8−229179
  【出願日】平成8年(1996)7月29日
  【課題】 便器使用のときに尿が床に垂れないトイレとすこと。
  【解決手段】便器で用便するものが立つ床を前下りに傾斜させる。
  【実施例】たとえ尿がこぼれても床6の傾斜で流れ、洗えば壁4と床6との間の溝7に流下し排水孔8から排出するようになっている。洋式便器10の場合、座った場合でも本発明により足が上がり、排便、排尿がし易く足も疲れない。
  【0009】上記例の他の種々の変形はすべて本発明に含まれる。
   (注:↑このような記述は、発明の変形例にも権利を及ぼそうとして、明細書に良く加える記述である。)
  【発明の効果】維持費も節約でき国民生活の環境良化のため画期的な発明である。

 どちらも、酔っぱらいが使うと転んでしまい、あるものは階段を転げ落ち、ある物は大事な物を便器に衝突させるか、または後頭部を激突させるであろう。とても危険で、正気の沙汰とは思えない発明である。
 また、『容易階段』のような階段は、よく駅のすり減った階段がそうなっているではないか。改修前の上野駅とか。特許の出願前に、その内容が公然と実施されていた場合、またはそのことが証明された場合、その出願は特許として成立しません。もちろん例外はあり、学術発表であるとか、実施したのが出願人である場合に、ある厳しい条件を満たすと登録になることはあります。しかし中松は上野駅を作ったわけではないし、床の傾斜したトイレだって、古い建築物を探すと見つかりそうだ。

 いずれにしても、老人や福祉や環境良化のために、転倒事故が起こったのでは引き合わない。いや、転倒事故を防ぐ工夫まで提案されていれば、画期的発明といえるだろう。誰か、その方法を思いついて、改良特許を出願しますか?
 ちなみに、他人の特許を改良したものが他の出願人から出願されるということはよくあります。その改良がとても具合が良くて、成立した場合に、元になる出願で特許を成立させた人であっても、その改良部分を使うにはその(別の)特許所有者の許可が必要です。
ですから、特許出願は、抜かりなくいろいろな改良点を考えながら出願しなければならないのです。

 その点、中松のこの出願は、スキだらけで、しろうとっぽい出願といえます。まあ、大学で斜面を専攻したわけではなかったので、しかたありませんが。

 (4)選挙ネタ

 中松は都知事選そのほかの選挙に立候補しているため、選挙にからんだ出願をしています。順次見ていくと、

  【発明の名称】自動伝達システム
  【出願番号】特願平5−126455
  【出願日】平成5年(1993)4月17日
  【目 的】 多数の人に急速に、確実に、且つ自動的に事項伝達するシステム
  【構 成】 第1段階で、第1のインセンティブと第1の指示があるカード等伝達物と前記第1の指示にもとづいて実行すると貰える前記第1のインセンティブのものと、前記第1のインセンティブのものと同時に第2のインセンティブと第2の指示を伝達する伝達物と、前記第2の指示を実行するともらえる前記第2のインセンティブのものからなる多数の人に伝達しうる多数自動伝達システム。

 これは選挙活動用に特化された、一種のネズミ講であります。ネズミ講でいまさら特許取得は無理でしょう。公序良俗に反する物は登録になたません。
 また、発明の効果として、ローコストで急速に事項伝達できると述べてあるのですが、そんな都合のいいインセンティブなどあるのでしょうか?実施例を見ますと、

 『第1のインセンティブ即ち金運かよくなる(金色の)お守りがもらえるとか、著名人の感謝状が貰えるとかチャリティは地球環境保護に使われるとか、誘因、動機づけの文が記され、これによりカードを受け取った人の意欲が触発される。』
 『17代(48日)で4000万人以上が組織化され』

 え、お守りや感謝状のためにみんな頑張るの?著名人といっても、ドクター中松の感謝状なんでしょ?それに17代までいけば日本の有権者の過半数は超えるわけだから、選挙に落選し続けることなど有り得ないでしょ?
 つまり、この発明の効果は、中松自身が証明しているのだ。


  【発明の名称】高能率コンパクトスピーカ
  【出願番号】特願平11−130398
  【出願日】平成11(1999)年3月23日
  【課題】  音道をとくに長くして音の到達距離を伸ばし、しかも音質が良く、かさばらず、扱い易いスピーカを得ること。



 中松の都知事選の時、選挙カーの上に載っていたスピーカーがこれでした。確かにうるさいスピーカーでした。音質以外は、効果のある発明とは思いますが、でも、これもBOSEのスピーカーなどで公然実施でしょ。

 (5)リボデイ

 出願日と名称から、銀行や生命保険会社などの相次ぐ破綻、公的資金投入などの状況に対する出願かな・・・・と思って読んでいたら、なんと160才まで生きられると言う発明『リボデイ』の宣伝であり、それで長寿になった場合に、保険料を割り引けよ、と言いたいらしい。

  【発明の名称】長寿保険システム
  【出願番号】特願平11−59159
  【出願日】平成11(1999)年1月29日
  【請求項1】 160才、110才等において長生き給付金支払表と、からだをつくり変える説明書と、生命保険開始日と満期日と掛金の表と、前記表による算定予定死亡保険金額および実際死亡保険金額および前記の算定の金額より実際の金額を差引いた金額表とから成る生命保険システム。

 そんなにありがたい『リボデイ』とは何か?
 以下に明細書を引用するので、本当に160歳まで生きれるか、興味あるひとは試してください。

 【0007】本発明のリボデイは、次の12項目から成る鍛錬を実践することである。これらの詳細については、本発明者の著者の「ここちよいリボデイ」(株)成星出版、1998年2月26日第1刷発行に祥述している。
   リボデイ実践−12項目の鍛錬
   クローズドサーキットと12の鍛錬から成るリボデイ
   さらに、リボデイのまとめとして次の「ここちよいリボデイ10か条」がある。


 みなさんは実践できますか?
 でも中松発明をいろいろ買わなきゃだめじゃん。
 この発明の効果の立証のためには、中松に160歳まで生きてもらわないと。


 (6)食物と毒物もの

 ということで、さまざまな食品も発明しています。『〜がよくなる飲み物、食べ物』シリーズもいろいろとあるのですが、コンビニで拾ったような発明もあります。

  【発明の名称】急速均一解凍美味健康食品
  【出願番号】特願平8−73307
  【出願日】平成8年(1996)2月22日
  【請求項1】食品に筒状、球状等の空気等マイクロ波や熱が通りやすい空間を設けたことを特徴とする急速均一加熱美味健康食品

 弁当のご飯やおかずに穴をあけておけ、というものだ。解凍時間短縮と、有害な保存料や塩、砂糖、調理油、人工調味料を減らせる効果があるようだが、そんな穴あきご飯、誰が食いたいのか?発明は利用されてナンボのもんなんである。その発明が、なぜ採用されないのか、中松は考えたことがあるのだろうか?(そんな形跡は、ない。)

  【発明の名称】煙なし焼肉装置
  【出願番号】特願平11−182191
  【出願日】平成11年5月26日
  【解決手段】焼ける肉から滲出する油を流出させて油溜に入れ、その流出する油を冷却して過熱、分解を防止しして煙を発生させぬようにすること。

 これ、平成11年の子供の日にでも、孫と煙りもうもうの焼き肉にでも行って奢らされたのだろうか。なんだか、生活の偲ばれるような出願である。

 ●環境ホルモンもの

  【発明の名称】カップめん等食
  【出願番号】特願平10−218428
  【出願日】平成10(1998)年6月29日
  【課題】  カップめん容器に熱湯を入れて食する場合生ずる有害な環境ホルモンを防除する手段を有するカップめんの提供。
  【解決手段】カップめん容器1に食材のめんの他に可食または非可食の油分除去物3を同封する。

 ということで、カップめん容器の中に環境ホルモンを吸収する物を入れておけというもの。でも、可食のものは、食べてしまうと対策前と同じことだし、非可食だと、間違って食べる危険があり、のどに詰まったら大変な自体になる。中松には珍しく、コストの詳細な記述がある。1998年後半、特許作成のアシスタントが優秀だったと見える。それとも頭の良くなる効果が現れたのか?

  【従来の技術】カップめんを食する際に、その容器に熱湯を入れると、容器の発泡スチロールから、有害な環境ホルモンであるスチレンダイマーやスチレントリマーが溶出することが知られている。そのために、発泡スチロール製カップを紙カップに取り替えるメーカーも一部ある。しかし紙カップは発泡スチロールのカップよりもコストが高く、例えば、発泡スチロールカップのコストが1個4円に対し、紙カップは1個10円と2.5倍も高く、紙コップを内製化しても1個7円と高いので、大部分のカップめんメーカーは紙カップに切り替えられない。しかも、紙コップ自身が塩素で漂した紙を使用するので、これを廃棄して焼却するとダイオキシンが0.78gTEQ/年排出するという日本製紙連合会の調査がある。従って、環境ホルモン発生の問題は解決せず、これにより食する人々も犠牲となっている。

 しかし、油分除去物が3円以上する場合は、やはりこれは無駄な発明である。だいいち、食べる前に除去しないといけないものが入っているカップ麺を、消費者は喜んで買うだろうか。自ら「体に悪い」と宣伝しているようなもので、紙カップを迷わず選ぶであろう。食べる前に除去するのは、焼きそばやスパゲッティのカップ麺のお湯ぐらいでしょ。使う側の身になって考えられていない、無神経な出願であります。

 ●毒物混入騒ぎネタ

  【発明の名称】毒物混入防止容器
  【出願番号】特願平10−292716
  【出願日】平成10(1998)年9月8日
  【請求項1】容器の正常位置と逆方向に表示することを特徴とする容器。

 要は、飲み口が下になるようにラベルを印刷せよということ。でも、飲み口から毒物を混入されたらどうするの?マヨネーズとか、チューブ入りわさびなどに、口を下にして立てておく物があるから、公然実施ではないか?

  【発明の名称】毒入防止容器
  【出願番号】特願平10−365995
  【出願日】平成10(1998)年11月18日
  【請求項1】穿孔したりパッチしたりすることに対抗する処理を行ったことを特徴とする缶等容器。

 これは、何か容器に加工すると外観が変化して気がつくというもの。これだと、陳列するのに気を付けないとすぐ不良品になってしまうからお店は扱いたくないですよね。
 ただ、阪神大震災ネタ同様、時流にのって即出願、という機動力は評価したい。
 今後は『紀伊国屋型出願』と呼ぶことにしよう。

  (7)宇宙エネルギ

 さて、いよいよ宇宙エネルギ発明を見ていくことにしますか。


 《図面10挿入位置》


  【発明の名称】高効率発電装置
  【出願番号】特願平7−193975
  【出願日】平成7年(1995)6月26日
  【目的】 光や熱等の放射線や宇宙エネルギから直接高効率で交流発電すること。
  【構成】 光の熱等の放射線や宇宙エネルギを互いに逆性のエレメントに当て、その出力を切換えて交流を得るときに、出力しないエレメントのエネルギをチャージし、出力するときにチャージしたエネルギを取り出して加える。
  【請求項1】 発電する複数の逆極性エレメントの殺された側のエネルギをチャージする事を特徴とする高効率発電装置。
  【課題を解決するための手段】光、熱、宇宙エネルギなどを受けて発電する(以下略)
  【実施例】図3は本発明実施例を示し、光、熱、宇宙エネルギを照射されて(以下略)  【発明の効果】本発明は光、熱、宇宙エネルギ等から(以下略)

 何度、出願を読み返しても、『宇宙エネルギ』に関する説明がない。業界の常識というものでもない、新しい言葉には説明が必要である。でなければ勝手に新しい理論や言葉を発明し、出願するものが現れてしまうからである。もちろ説明のない言葉で構成された出願は、発明が完成していないと見なされ、特許の権利が与えられることはない。

 その後、エネルギ発明は平成9年以降の出願で大きく変化する。

  【発明の名称】対流エネルギ装置
  【出願番号】特願平9−307781
  【出願日】平成9年(1997)10月4日
  【特許請求の範囲】流体を加熱し、対流により流動する流体の流れによりエネルギを得ることを特徴とするエネルギ装置。
  【発明の実施の形態】家屋などで発生する生活熱や太陽熱により生じる空気や液の対流により発電機のファンを廻して発電し、また、換気を行なったり、温水を得るなどである。

 これは、建物内の生活上の廃棄熱などを利用して発電しようとするものです。
 中松はこのアイディアがよほど気に入ったのか、あるいは久々にお金になりそうと思ったのか、平成11年に4件の分割出願が出され、平成12年に公開されています。いままで分割という特許出願テクニックをあまりやらなかった中松だが、やはり平成10年
(1998年)後半から、良いアシスタントがついたのではないかと推測されます。
 しかし、そんな廃熱でどの程度の電力が得られるのだろうか?廃熱は一番利用しにくいエネルギであるし、どうしても太陽定数1.98cal/cm2/minより良い効率はでないと思えるのだが。

  【発明の名称】エネルギ電波装置
  【出願番号】特願平9−330793
  【出願日】平成9年(1997)10月24日
  【要約】パラボラアンテナ等の面状アンテナの一部または全部にソーラーセルまたは太陽熱温水器などを設けることにより電波受信と電力や温水を得て、各々の占有場所が一つにまとめられ、また、テレビのリモートコントローラのための待機電力も得られるので、省電力となる。

 これは衛星放送のパラボラアンテナを利用して発電するというもの。BSデジタルやCS放送の普及を予測し、これで儲けようと思ったのだろう。これも平成11年に7件に分割出願し、平成12年に公開されています。
 それとも、NHK-BSの料金を徴収されて、それを回収しようと出願したのかもしれない。
 しかし、パラボラで集光して発電や、温水器を兼用するなどといっても、太陽の位置は動くし衛星の位置は固定なのだから、パラボラを太陽を追いかけて動かすこともできない。一日のうち発電出来る時間は短いはずだし、パラボラに太陽電池を敷き詰めても効率は必ず太陽定数1.98cal/cm2/minより悪く、もしそれで電波を集める効率が落ちたら元も子もない。
 結局、それらをバラバラに設置するより場所を節約できるという効果だけであろう。
 
 ということで、宇宙エネルギに関してはよく分かりませんでした。ただ、
  【発明の名称】角度が異なる衛星用アンテナ
  【出願番号】特願2000−175525
  の【発明の効果】に、
『本発明は電波の宇宙エネルギをすべて有効に活用しうるものであり電波のみでなく、他の異なる機能も有し、あわせて、場所の活用、省資源、省エネルギを推進しえるなどきわめて顕著な効用をする画期的な発明である。』

 とあるので、宇宙エネルギとは、実は電磁波のエネルギーや、太陽熱など、地球にふりそそぐエネルギや、生活廃熱すべてという意味なのかもしれない。それらは『宇宙じゃない』とは言えないわけです。「明日の天気は晴れか雨か曇りです」と言っているようなもんで、結局、中松は何言ってるか分からないです。


(8)セックス発明

 ではみなさまお待ちかねの。

 

  【発明の名称】感度が向上するコンドーム
  【出願番号】特願平5−353034
  【出願日】平成5年(1993)11月14日
  【目的】 性交時の感覚を増大せしめ、これによりコンドームの使用度を増大してエイズ撲滅を行うこと。
  【請求項1】磁気又は電導性を一部又は全部に有する事を特徴とするコンドーム。
 
 目的はりっぱだが、さて、なんで磁気で性感が向上するのか?

 『マグネット5はコンドームシート面よりも突出しているので、これが図5に示す女性性器のジー(G)スポット6を物理的に刺激し、且つフレミング左手の法則により女性性器血管が発電し、性感度をさらに向上する。』

 おまえ試したのか?女性の臨床データを付けないと認められないんじゃないか?Gスポットとマグネットの位置あわせはどうするのだ?解決すべき技術課題がまだまだ山積みだぞ。
 それじゃあ、男の方はどうかというと、

 『フレミング左手の法則により女性性器内血管が発電し、その電流は女性のみならず導電性コンドームにより男性側にも流れて脳神経に達してベータードパーミンを脳内に発生させ、男女共に性感度が著しく増大する。』
 
 セックスで発電、そして感電!まさにシビレルようなセックスである。

 『ペツサリーの場合も本発明の特許請求の範囲に入るものである』

 う〜ん、ペッサリーでGスポットを刺激出来るのか?それに、あれは女性の体の中で動かないから、ピストン運動しても発電効果はないと思う。もっとも、磁性と導電性のあるペッサリーとコンドームを併用すれば、相乗効果で発電効率は上がるだろう。まさしく自家発電だ。

 『本発明コンドームを装着することにより性交時の感度が向上し、そのためにいままで装着しなかつた人も装着するようになり、現在世界的に急務となつているエイズの撲滅のキメ手となり、人類滅亡を救う最も重要な発明である。』

 だったら、早く量産して、アフリカでエイズ感染の恐怖で苦しむ人たちに配ってこいよな。

  【発明の名称】高感度コンドームシステム
  【出願番号】特願平6−80825
  【出願日】平成6年(1994)3月15日
  【目 的】 コンドームの上部に突起を設け、性感度を向上させることにより使用を促進し、エイズや性病を撲滅すること。
  【請求項1】 上部に突起を有する事を特徴とする高感度コンドームシステム。

 これは特願平5−353034の改良出願である。また、先の出願でも突起部は記述されていたのだが、その公開される前の出願なので、突起部を請求項にすることは問題ない。では何が改良されているかというと、

 『コンドーム1先端の精液溜4をなくし、亀頭上部に突起7を設けてこれを精液溜とし射精された精液は矢印8のように路9を流れて上部突起7に達してGスポットを刺激する。』して

 つまり、射精された精液をも利用して、Gスポットを刺激するという予期せぬ効果があるのだ。しかし、相変わらず、どうやってGスポットと位置を合わせるのかという課題は解決されていないし、さらに致命的な欠陥がある。
 そう、射精してすぐしぼんでしまう男の場合は、Gスポットどころではないのである。
 これを使いこなすためには、
 (1)コンドームの装着時において、女のGスポットの推測ができる
 (2)射精しても萎えずにピストン運動できる
 という、セックスの達人になる必要があり、そんな達人はもはやこんなコンドームは必要としないであろう。

 『突起物は上記マグネット以外にプラスチックや絆創膏など他の突起物を使用してもよい。』

 これは、材料のバリエーションの記述である。材料を変えて特許逃れをされることがないように記述するもので、中松特許も徐々に進化している。だが、特許戦略的には先出願をまず『突起部』を独立させて分割出願し、次に精液の利用を請求項にして出願すべきであろう。そういったことができるようになるのは1998年になってからだ。

 この特許のシメの一言は、
 『ナマでやるよりも感度が上がるため、本発明を装着して性交するので自然にエイズ蔓延阻止となり、人類の敵エイズを撲滅出来る発明であり、人類にとって極めて重要な発明である。』

  さて、ラブジェット特許である。

  【発明の名称】セックス感度向上潤滑システム
  【出願番号】特願平6−307161
  【出願日】平成6年(1994)11月5日
  【請求項1】メカニカルに刺激する装置と潤滑機能を付与した液体と催淫剤の3つから成る事を特徴とするセックス感度向上潤滑システム。
  【産業上の利用分野】本発明は、日本の子供数全国平均1.48により70年後に日本人口が半分になり700年後に日本人がゼロになる。この日本人滅亡を防ぐ発明として位置づけ、セックス感度を向上させ、子供を産む率を増す。更にコンドームなしでエイズ防止になるので厚生上極めて有意な発明である。

 コンドームなしでエイズ防止???いったいどういうこと?
 これは、催淫剤と潤滑剤の混合物にシリコンオイルで粘性を与えて、吹き出し口から棒状に垂れるようにしたことが特徴らしい。中松は、液体の粘性や、吹き出し口の適正な口径の関係にはあまり詳しくなかったようで、この発明を通して学習したようだ。実験を繰り返し、ついに、

  『本発明者の度重なる多くの実験により100CS又は200CSとすると棒状流となる事を本発明者が発見した。(中略)直径0.23mm、圧力24.1g/cm2、ビスコシティ100〜200CSの三つの条件が整うことを最低条件として発見した。』

 こういうパラメーターの記述は結構重要です。特許というものは、まず最初にベスト・メソッド、最良の方法を提示しなくてはなりません。こうしたパラメーターの組み合わせを示すのは有効です。
 さて、明細書には具体的な使い方が詳しく記述されています。

 『前記棒状流5をクリトリスなど性感部6に当てることにより、指などで刺激するより軟流体でソフトで痛くなく性感を著しく向上する。』
 『膣口7に当てても膣の中によく入り込み、あるいは図5のように噴射容器2の頭部を膣口7に挿入し頭3を膣内で押して液1を膣内Gスポット等に噴射させて性刺激を与える。』

 また、潤滑性のため、女性のバルトリン腺液が充分出ない場合でも、男性器が硬化エレクトしなくても膣にスムーズに挿入出来るため前戯も不要という思わぬ効果があるとしている。このあたりの描写のこまかさは、さすがにこの発明だけは自分も実験に参加したのであろう。年をとると前戯が面倒になるのだろうな。それとも、このラブジェットの実験のデータをたくさん集めるため、とにかく速く挿入したかったのか。それもこの発明の効果か???

 しかし、コンドームなしでエイズ防止???という疑問に答える部分の記述は、

 『本発明流体1は男女性器の間に被膜をつくり、エイズなどの性病を予防することもできるので、従来のコンドーム使用の場合にゴム膜厚による性感低下のためコンドーム使用を嫌い、そのためエイズ感染もあった事も防止出来る。又子供が欲しいがエイズや性病防止もしたいという両立が従来不可能であつた事が可能となり人類にとって画期的な発明である。』

 う〜〜ん、子供が欲しいというなら、射精するのだろうし、射精した場合にはエイズは感染力があるのではないだろうか。エイズウイルスのみブロックするような成分でもあれば、大発明であろうが、どこにもそんな記述はない。ちなみにドクター・中松の通販のホームページには体験談が寄せられている。




  ■体 験 談■
    ♂♀ 最初は男が女に、次に女が男の枕元に、更に女が自分で使用。
    ♂♀ 外国人の女性が泣いて興奮した(著名芸能人)
    ♂♀ 前戯無しで興奮の度合いが高まります。
    ♂♀ 恋人、夫婦の仲も新密度を増します。
    ♂♀ 手放さなくなった(東大卒経営者)
    ♂♀ またHDEAホルモンにより肌が良くなり、記憶力が向上し、筋力も強くなります。

 東大卒経営者とはおまえのことだろ。で、さすがにエイズ予防になるとは書いていなかった。書けないだろうなあ。

●第3章〜結論、発明王とは〜

 以上、中松特許を詳細に検討してきた。発明者というのは、得意分野があるもので、それは大学の専攻だったり、始めに勤めた研究所の課題であったりする。中松の場合は、

◆技術分野で分類◆

 a.磁気
 b.エネルギ変換
 c.ケミカル(高分子)
 d.食品

 ◆目的別で分類◆

 (1)頭が良くなる      (特許出願方式の進歩が見られるので、効果はあるらしい)
 (2)長生きできる      (効果の証明はまだ不十分)
 (3)セックスがよくなる   (効果はあるらしい)
 (4)腰痛防止、床ずれ防止  (効果不明)
 (5)災害・犯罪の対策となる (効果はあるだろうが、採用は困難)
 (6)選挙に勝てる      (効果が立証できていない)
 (7)エネルギー事情がよくなる

 そこで
 ◆トンデモ度で分類◆
 してみると・・・

 (レベル1) とりあえず効果はあるようだが、周辺まで考えられていないため採用し難いもの
         パチンコや容易階段、居眠り運転防止枕
           →どちらかというと、町のしろうと発明家の出願に近い。

 (レベル2) 『紀伊国屋型出願』で、内容が深く考えられていないもの
         埋没脱出器や毒入防止容器
           →でもよく公告まで持ち込むものだ。

 (レベル3) 効果の測定が極めて困難で、採用を控えたいもの
         リボデイ、コンドーム
           →食べ物とか、性具や、精神論ではね。

 (レベル4) あまりに独りよがりの発明のため、その機能に利便性がないもの。あきらかに公然実施があり、新規性がまったくないもの。
         高能率コンパクトスピーカー、自動伝達システム
           →出願前に少しは調べろよな。

 (レベル5) もうなにがなんだかわからないもの
         高効率発電装置、エネルギー変換系全般
           →とにかく目の前に動く物を持ってこい、と言いたくなる。

 中松特許出願の最近の読みどころは、(4)腰痛防止、床ずれ防止のような、身辺雑記、暮らしのエッセイに近い出願や、(5)災害・犯罪の対策のような、日曜朝の対談番組的出願であろう。もちろん、(1)頭が良くなる、(7)エネルギー事情がよくなる、といった中松特許の本筋も引き続き追跡する必要があるし、(3)セックスがよくなる、特許にツッコミを入れる楽しみもまたあるでしょう。
 レベル的にも、1〜5まで、いろいろなレベルでの出願を取り混ぜて、特許出願明細書を読むことを楽しませてほしいものだ。

 ◆結論◆
 中松は『自称・発明王』である。これはプロレス団体を一人で興したら、自分がエースであるのと同じような物。人や荷物をのせてしっかり稼ぐ自動車はほんの数台しか登録していないタクシー会社社長が、『俺の家にはミニカーやプラモデルの車が3000台以上あるんだぞ』とコレクションを自慢しているようなものです。おそらく社長の家を訪ねれば、様々なコレクションアイテムを見せてくれるでしょうが、だれもそれが趣味以上の物とは思わないでしょう。
 中松は特許出願をエッセイや世間話や猥談のエリアまで広げてしまいました。その功績は評価してよいでしょう。特許出願の吟遊詩人、という誉め言葉まで私は発明してしまいました。

 ◆『サブマリン特許』◆
 最後に、もう一人の発明王、レメルソンをご紹介して本編を終わりにします。
 500件以上のの特許を取得し、自らエジソンの再来と自称した発明王レメルソン(74)のもっとも有名な『サブマリン特許』は、1954年に特許を申請した万能ロボットの図面で、それがなんと画像処理の基本特許に姿を変えて1989年に復活したのです。それは後の発明を含むように巧みに継続出願され、画像処理の基本特許であるかのように振る舞い、自分が発明していないものにまで特許料を請求しました。日本の自動車メーカーなどがあわてて払った合計1億ドルになろうというライセンス料を元手にして優秀な弁護士を雇い、さらに他の企業を訴えまくりました。
 1991年以降、約10億ドルのライセンス料を徴収しています。
 おそらく中松の出願パワーも、IBMの契約料が元手となっており、そして私が解説してきたような現状に至っていると思います。できれば、中松義郎には、そうした悪い特許権所有者を懲らしめる発明をしていただき、開発者が安心して製品開発を行える世の中にしていただきたいものであります。そして、私の勤務先以外であれば、多額の特許料ふんだくってかまいませんから頑張ってください。(できれば米国企業からいただくことを期待しております。)


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謝辞
 大豆生田利章様
 中松特許の研究結果を利用させていただきました。ありがとうございました。
 特許法についての誤りなどありましたらご指摘ください。
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