『SF劇場 銀河の彼方からきた謎』

〜地球の裏から「実話雑誌」〜

このページの最終更新日付は1999/10/25
このページの前回更新日付は1997/02/26


 日本SF小説史には決して残らない作品を発掘しました。
 それは、ペルーにナスカの地上絵を見物に行った1989年8月5日のことでした。その日は観光コースの中でリマにある「日秘文化会館」内のペルー日本人移住資料館を見学しました。1899年以来の日本人のペルー移住の歴史を展示した博物館で、昭和20年9月1日に昭和天皇が発行した日本の降伏を伝える文書や、「アンデス正宗」の酒瓶などが展示してありました。日本とペルーの関係は深いのです。
 「日秘文化会館」には、和食のレストランや、日本人向けに日本語の本の図書館もありました。見学を終えた私は昼食に刺身定食を食べました。メニューには他にもカツ丼、味噌ラーメンなどがありました。
 図書館というとついつい覗いてしまう私は、吸い込まれるように中へ。そこは公民館に併設されている図書室のような感じで、教室程度の部屋に本棚が並んでいました。漫画の棚もあり、「なかよし」「マーガレット」、同じ棚になぜか「主婦と生活」。そして廊下に平積みになった古い雑誌の山。私はそれに引きつけられました。近寄ってパラパラめくっていると、係りの人が、
「あっ、それは廃棄するんだ。欲しければ持っていってもいいよ」
 と言ってくれたので、2冊選びました。「富士」という(株)世界社が昭和25年11月1日発行した雑誌は「愛欲事件小説大特輯」と表紙に刷り込んでありますが、山岡荘八の「泥んこ聖者」を掲載している娯楽小説誌。

あと1冊それは、昭和42年5月1日付けで(株)三世新社が発行した「実話雑誌」。こちらは日本で見つけるのは極めて困難と思って選びました。日本で見つからないものが、海外で発見され ることは、良くあることなのですね。
 表紙は、五重の塔を背景に全裸の女性が竹の長椅子に座り、乳首を扇子と鞠で隠 しているイラストです。

  

★現代人が最もエキサイトする雑誌★
 実話雑誌 5月特大号総232ページ

 41ページから始まる2色刷りイラスト付き小説『SF劇場 銀河の彼方からきた謎』を皆さんに紹介しましょう。
副題は「男性壊滅をねらうセックス虫の暗躍と謎」です。作者不詳。この作品に限らず、この雑誌の総ての記事には、どこにも署名というものがないのです。作家の人格など、なんら考慮することも、また、読者にも考慮させることもない、というのがこの雑誌の「エロ」にのみ奉仕する真摯(?)な態度であるといえる。ただ、「編集兼発行者 古川 隆」というのが、記事内容以外に現れる唯一の個人名である。この人が総ての雑誌記事を書いたのかもしれない。

 さて、物語の冒頭で、ミチコという名のご令嬢がビキニ姿で浜辺に寝そべってい るうち、奇怪な生物に侵入されるシーンがあります。

  そうして、あきらかにその不気味なものは、用心深く、
 じわじわとミチコに接近していった。そいつは、意志を
 もっていた。
  やがて−−
  いよいよ、そいつはミチコの足の真下にやってくると、
 ミチコの足の毛穴からごく微小な汗つぶみたいになって、
 チュチューッと体内に吸い込まれてしまったのである。
  (途中略)
  だがしかし、ミチコの体内に侵入したやつが生きもの
 である以上、なんらかの変化がミチコに起こるのは、当
 然であった。
  さよう。−−一日たち、二日たちするうち、まったく
 の鎌念令嬢であったミチコが、異様にセックスにたいす
 る関心をもちはじめたのである。




 <  そして、ミチコが行きずりの男たちから精力を吸い取るようなセックスをする描 写がある。


  青年は、ミチコに下を吸われると、魂の底まで引き抜
 かれるような、物凄い陶酔と刺激にわれを忘れ、しびれ
 てしまった。
  また、セックスすると、全身がとけてしまって、深い
 海底に沈んでいくような、極度の感覚麻酔を起こした。
  かくて、青年たちは、ミチコのセックス・プレイに完
 全に骨抜きになり、朝まで動けなくなるのが通例であっ
 た。





 怪奇な生命体については、

  宇宙科学者の説によると、太陽系をはるか越えた大宇宙
 の、距離にして五億光年くらいかなたの銀河系には、謎の
 生物がウヨウヨしており、さいきん、これらの生物が、何
 かのはずみで、さかんに地球に飛来してきているというこ
 とである。   そういえば、ここ四、五年来の、とくに若い女性たちの
 セックスに対する積極性は、まことに異常なものがある。
  かの女たちは、べつに週刊誌や婦人雑誌からの知識でセッ
 クスへの興味をいだいたものではなく、たしかに、何者か
 にそそのかされて、セックスに大胆なのだ。
  なにしろミチコの体内に侵入したやつは、毛穴ほどの穴
 さえあれば、女たちに痛もカユミもあたえず、スイスイと
 まかりとおってしまうのである。
  電車の手すり、水道の水、彼女たちがのむジュースやみ
 つ豆や、ラーメンなどから、きわめて容易にやつらは、女
 たちのなかにはいりこみ、セックス腺をゆさぶっているら
 しい。



 ここで「セックス腺」という発明をしていますが、何なのでしょうか?この短編 の結末は、

 


  アベック喫茶、公園のベンチ、映画館、そして温泉マー
 クの愛の密室における現代女性の積極性を見よ。
  かの女たちは、めすのかまきり以上にどん欲で、猛烈で、
 これでもかこれでもか、もっと、もっとと男をむさぼって
 いる。   いっときのことなら、男もしあわせかもしれないが、こ
 の状態がつづいたとき、いつしか男が亡びることは十分予
 想される。
  そうだ!
  銀河系の彼方からやってきたセックス虫は、実に巧妙な、
 残情すべき方法で、しだいしだいに地球人を食いつぶして
 いくのだ。
  といって、やつらを防ぐ方法は、われわれのほうにない。
  ああ、何としたものであろう?・・・・・







 で、あっけなくオチなしで終わっている。
 「SF劇場」と名乗ってはいるが、コリン・ウィルソン「宇宙ヴァンパイヤー」 の先行作品、と位置づけるにはあまりにお粗末な描写と科学知識であろう。
 世の中の「SF」と名乗る作品の大部分が、「世界観の作者に都合の良い単純化 」の道具として「SF」なるものを使い捨てにしているのであり、この作品もその 例に漏れない。
 ここでは、現代女性の性的発達を、宇宙生物のせいにしたいのであり、それを女 性の権利意識の現れとか、男女平等の平等思想から来るのではないかなどとは、「 女は征服すべきもの」「男は支配者」という男だけの(当時の)常識に縛られてい る者(作者、読者含めて)としては考えたくないのである。
 そして、「宇宙生物のせいならしかたがない」という風に納得(?)させ、「本 来つつましやかなはずの日本女性が、私に性行為を誘ってくるように思えるのだが 」という「たまっている男」が女性から感じるものに「困惑しなくていいんだよ」 不安を取り除いてあげ、そして「どんどん誘い(誘われて)、女と性行為に及んで も責任はとる必要などないのだ」という心理的免罪符を読者に与えるのが、この「 SF劇場」の目的であろう。



 平成の現在では、そういった視点から、この記事を笑うことができるが、さて、 当時の読者はこの記事を楽しめたのだろうか。
 当時は東宝怪獣映画や輸入SF映画もあったであろうから、作者も安易に世界を 借り、読者も安易にそんなモノだろうと読み捨てにしたのであろう。「エロ」の目 的からすれば、もっと宇宙生命寄生体特有の性行為描写を、もっと具体的にあって いいのではとも思うが、作者もそこまで思いは及ばす、2色刷りのページ数が尽き てしまったのであろう。読者にとっては、ほかにも怪しい記事がいくらでも載って いるので、この記事だけ特にヘンだと思うこともなかったであろう。


 しかし、ペルーに移り住んだ日本人は、この様な雑誌を大事に大事に図書館で回し読みしていたのである。
 そして、後生の私たちに残してくれたのだから、誠に有り難いことである。



 そういえば、旅の本来の目的、ナスカの地上絵での事ですが、その上をセスナで 飛んだり、研究家ヘルマ・ライヘの住んでいた家を見たりしました。地上絵は自動 車で踏み荒らされて、タイヤの跡の方がクッキリと見えました。ひでーもんだ。
 地上絵、星座を拡大描写したものという解釈が最も妥当だと思います。元絵を拡 大する技術はそう難しくはないですからね。やっぱりこの旅最大のみやげは「実話 雑誌」でした。




以上の文章は「と学会誌」4号に発表したものです。小説とイラストを全部紹介したいのですが、著作権上権利者と連絡がとれません。ご存じの方はお知らせください。

osawa@lyrica.net


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